キュピルの性欲


今日も変わらないナルビク。
いつも通り港は漁師たちの間で賑わい、観光客がアクシピターの前で記念撮影し、良からぬ事を考えている奴がシャドウ&アッシュへこそこそと依頼しに行く。
観光街としても冒険者の街としても似つくわない、一つのクエストショップで複数の人たちがとある男に疑問を馳せていた。



・・・・。

・・・・・・・・・・・・。



ヘル
「今日もルイさんは可愛いな。」

クエストショップのフロアに置いてあるデスクを磨き、観葉植物に水をあげるルイ。
その一連の動作をこっそりと眺め続けているヘル。

テルミット
「ヘル・・・。あんまりそういう事口にして万が一キュピルさんに聞こえたら大変なことになるよ。」

テルミットが困った顔をしながらコソコソとヘルに話しかけた。
しばらく返答しなかったが、ルイがやる事を終えてキュピルの家へ戻っていったのを確認すると再びヘルが口を開けた。

ヘル
「別に狙ってる訳じゃねーよ。」
テルミット
「(だといいんだけどなぁ・・・。)」

ヘルがテルミットに向き直ると声を一段と細めてテルミットに話しかけた。

ヘル
「しかしテルミット。俺はキュピルさんに対してどうしても知りたい疑問がある。」
テルミット
「一体どうしたんですか?」



ルイ
「うーん・・・・・。」

ルイが溜息をつきながら濡れタオルを洗い場に置き、小さなジョウロを窓際に置く。
その様子が目についたファンがルイに話しかけた。

ファン
「おや、ルイさん。そんなに悩んで。何かあったのですか?」
ルイ
「あ、ファンさん。・・・ファンさんになら話してもいいかな。あの、ちょっとキュピルさんに対して疑問が・・・。」

ルイがコソコソ動きながら椅子に座り、ファンはルイの座っている椅子の近くで足を畳めて床の上に座った。

ファン
「僕が知っている事でしたらお答えしますよ。それで何が疑問なのですか?」





琶月
「おかしいです。絶対におかしいです!!」

輝月の部屋に突然押し入るなりギャーギャー騒ぎ出す琶月。
いつもの事ながら琶月はうざうるさい。だが琶月が疑問に対して大声をあげるのは珍しい。

輝月
「ほぉ、お主が大声あげて何かを疑問に思うとは珍しいな?いつもは虐げられて歓喜の声をあげているお主が。」

輝月が振袖で口元を隠しながら楽しそうに言う。

琶月
「ああああああああああああ!!!歓喜じゃありません!!!!」
輝月
「そんな事はどうでも良い。それで一体何が疑問なのだ。」
琶月
「あ、えーっと・・・。キュピルさんに対してどうしても気になることが・・・。」
輝月
「む?キュピルへの疑問?大方給料を上げてくれぬ事を疑問と思っているのだろう、その事についてなら聞き飽きた。帰れ。」

シッシッ、と琶月を追い出す輝月の行動に琶月が輝月の足にしがみ付きながら声を上げる。

琶月
「違います違います!私の話聞いてくださーい!それにそんな疑問はとうの昔に意地悪されているっていう結論出ているのでわかっています!」
輝月
「後でちくってやろう。」
琶月
「あああああああああああああああああああああああああ!!!前言撤回です!ごめんなさいごめんなさい!!!給料が四桁から三桁になっちゃいそうです!!」
輝月
「(そこまで減らされておったのか・・・・。)
まぁ良い。それでキュピルに一体何の疑問を持っておるのじゃ?」




キュピルに対して皆ある共通の疑問を思っていた。
その疑問を三人場所は違えどそれを同時に口にした。



ヘル&ルイ&琶月
「キュピルさんって性欲ないんですか?」








・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。







ヘル
「よくよく考えてみろ。キュピルさんにはルイさんっていう街歩いていようがCHH居ようが中々見れないレベルの美女だぞ。
それもルイさんがあんなにもキュピルさんにアタックをかけて、それを綺麗に交す。ルイさんを嫌っているならともかく両想いでもあるんだぞ。
ならなぜキュピルさんはそれを気づかないふりをしてアタックを回避する?」
テルミット
「うーん、僕にはヘルの言いたい事もキュピルさんの考えている事も分らないけど・・・・。」
ヘル
「俺が言いたい事は単純だ。キュピルさんはルイさんの誘いを回避しているように見えて実は本当に性に興味がないから結果的に回避しているように見えているだけなんだってことだ。」
テルミット
「言いたい事はわかりました。・・・でもそれが事実かどうか確認するのってすごく難しいような気がするんですが・・・。・・・あ・・・。」

テルミットが何かに気づいたような顔をするが、ヘルは気にせず話を続けた。

ヘル
「あぁ、それともクエストショップは防音性低いから音を気にしてやっていないだけなのかもしれねーな・・・・。
それともキュピルさんは粗チンだからルイさんに見せる自信がねーのか・・・。」
キュピル
「防音性は確かに低いから発言には色々気を付けた方がいいぞ(ピキピキ」
ヘル
「」
テルミット
「ぼ、僕は関係ありませんからね!!」





・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・。




ファン
「性欲ですか。」
ルイ
「こんな事話すのは本当は恥ずかしいんですけど・・・。キュピルさんは男性ですから、ふつう・・・・その・・えっと・・・。」
ファン
「仰りたい事はわかりますので口にしなくて結構ですよ。」
ルイ
「すみません。それで・・・。見ての通りキュピルさんはあの様子ですから。性欲がないと思えて仕方がないんです。」
ファン
「失礼ですが単純にルイさんが受け入れてはくれないと勘違いしている可能性はありませんか?」
ルイ
「・・・・い、言い難いのですが・・・えっと・・・。普通に・・・お誘いした事も・・・・。」

ルイがこれ以上ないぐらい赤面しつつファンに事実を告白する。
普通ならば聞いている側も赤面してしまうような内容だが、種族が違う成果ファンは表情一つ変えずに返事を返す。

ファン
「不思議な話ですね。その時は十中八九忙しいとかの理由で断られたのだと思いますが、ルイさんの性格上忙しいときには声はかけていませんよね。きっと。」
ルイ
「もちろんキュピルさんがリラックスしている時に話しかけたつもりだったのですけれど・・・。ところでファンさんにも性欲ってあるのですか?」
ファン
「種族上の事もありますがないですね。」
ルイ
「だと思いました。」



・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。







琶月にキュピルの性欲について聞かされて真っ赤な髪の毛に負けないぐらい赤面する輝月。
何か口に出そうとするが発音せずただただ口だけがパクパクと動いている。

琶月
「あれあれ。師匠って意外とそういうお話苦手でした?」
輝月
「む、昔ならば全く気にはしなかったはずなんじゃがな・・・。どうしたものか・・・。」
琶月
「今はなした相手がキュピルさんだからじゃないんですか~?師匠~?」
輝月
「ええい、黙らぬか!」
琶月
「ひゃぁっ!!」

輝月が刀を振り始め間抜けな声をあげながら避ける琶月。

琶月
「わぁっー!!すいませんすいません!!」
輝月
「全く。しかしなぜ突然そんな話をしたのだ。」
琶月
「はぁ・・・はぁ・・・。ほら、キュピルさんってルイさんに誘惑されても全然動じないじゃないですか・・・。普通男の人って誘われたら・・・ましてや、ルイさんみたいに
可愛さも美しさも重ね備えた人に言われたら一発ですよ、一発。きっと恥ずかしながら言っているに違いありませんよ。」
輝月
「しかしキュピルは断っておるのか?」
琶月
「らしいですよ、キューさんの情報によると。」
輝月
「そうか。」
琶月
「何で嬉しそうな顔しているんですか、師匠。もしかして自分にならキュピルさんは振り向いてくれるかもしれないとか期待している訳じゃありませんよね?」
輝月
「馬鹿なことを申すな!!」
琶月
「あんぎゃぁっー!!」

抜刀される前に輝月が拳をだし、ボコボコにされる琶月であった。





・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






その話題を境にキュピルに対する皆の見方が少し変わった。



キュピル
「ん?何でみんな俺を見ているんだ?」
テルミット
「い、いえ。別に何でもないですよ。」
ファン
「特にありません。」
輝月
「・・・・・(直視できない」

キュピル
「?」






・・・・・・。


・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





数日後。


ヘル
「(キュピルさんってマジで性欲ねーんかな?もしかしてルイさんに魅力感じてないのか?俺がいい女紹介したらルイさん投げて別の女に行ってくれるか?)」
ルイ
「(一番の理想はキュピルさんに直接お聞きする事だと思いますが・・・、しかしこんな事聞く方も恥ずかしいです・・・。)」
輝月
「(うーむ。悔しいが武術ではワシの方が遥かに上でもルックスではルイに負けておるな。今までこのような事を一度も考えたことがなかっただけに悔やまれるな・・・。
胸がない方が戦いに向いておったからサラシできつく巻きつけていたが、よもやそれが仇となるとは。)」


三人がそれぞれの思案を巡らせる中、いつも通りの生活と仕事を続けるキュピル。
そもそも、性欲以外にも傍から見ればキュピルには謎が多い。
本来人と言うのは常に欲に塗れており、それが綺麗な欲でも汚れた欲でも、その欲を成就するために人は行動している。
例えば働いてお金を貯める。犯罪を犯して大金を掴む。
綺麗な女性と仲良くなり段階を踏んでいく。夜道歩いている所を掻っ攫う。
大抵の欲は頭の中で考えるだけで留める事が多いが、常に小さな欲が取り巻いている事は事実だ。

キュピルにはその欲が殆ど見られない。


ルイ
「キュピルさんって本当に欲がないのかなぁ~・・・・。」

机の上に突っ伏しながらとっくりに入っているお酒を盃に注ぐルイ。半分ヤケ酒状態だ。

ファン
「昔はそれなりに欲はありましたよ。」
ルイ
「え、本当ですか?」

ルイが顔を上げファンを注視する。

ファン
「はい。物欲なんかはよくありましたね。そういえばおいしい食事もとりたいと言っていたこともありました。」
ルイ
「・・・その・・・あれは?」
ファン
「それは昔から殆どありませんでしたね。思えば女性にプロポーズしたりアタックを仕掛けたことがあるのは本当にルイさんだけです。」
ルイ
「(キュピルさんが小さい頃・・・。ここアノマラド大陸にはいなくて異世界で生れてその世界で育ってきた・・・。
その時、ミティアという幼馴染がいてそのミティアって人がキュピルさんの婚約者だった・・・。でも、そのミティアは小さい頃の私で・・・。
記憶にはないんですけど・・・キュピルさんも私もその事実はもう知っている・・・。もし、仮にミティアって人は私じゃなくて別の人だったら
性欲がないように見せかける理由は分るんですけど・・・・。その本人からの誘いも流すキュピルさんっていったい・・・。)」
ジェスター
「あ、お酒の匂いだ。ちょ~だい~。」
ルイ
「・・・・・・・・・・・。」

あーんと大きな口を開けて待っているジェスターを注視し続けるルイ。

ジェスター
「・・・・・ん~?」
ルイ
「・・・・ファンさん。まさか・・・・。」
ファン
「それは絶対にないので安心してください。」

ファンが目をつむりながらふるふると首を横に振った。

ファン
「仮にキュピルさんがロリコンだとしたら、突如キューさんがやってきて『アタシは未来からやってきたおとーさんの子だよ!』とか言って来たら普通は歓喜しますから。」
ジェスター
「何の話しているのか分からないけど、心の中で歓喜している可能性は~?」
ファン
「それもないですね。初めてキューさんが来たとき心底嫌そうな顔をしていましたから。」
ジェスター
「ふ~ん。・・・あ~ん。」

思い出したかのようにジェスターが再び口を開ける。
勿論お酒を与える訳にはいかないので机に置いてあった大きな煎餅の袋を開けジェスターの口にあてた。
それをジェスターは口で加えると嬉しそうに飛び跳ねながら自分の部屋に戻っていった。

ルイ
「・・・・よし、決めました!!」
ファン
「何をですか?」
ルイ
「試しにキュピルさんに罠を仕掛けてみます。」
ファン
「面倒な事にならないよう気を付けてくださいよ。」






・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。







ヘル
「テルミット。キュピルさんはどういう女性が好みだと思うか?」
テルミット
「突然変なこと聞かないでください・・・。それはやっぱりルイさんみたいな人が好みだと思いますよ。」
ヘル
「やっぱりお前女性関係ダメだな。」
テルミット
「ヘ、ヘルにだけは言われたくないよ!!」
ヘル
「俺の事なら熟知してるってか?」
テルミット
「うん。」
ヘル
「(今背筋がゾクッとしたぜ・・・。今どっちの意味で言ったんだ・・・?)」
キュー
「おとーさんはロリコン。それはもう確定事項だぜ。」
ヘル
「ん、キュピルさんの娘か。どうしてそう思った?」

キューが仁王立ちして自信満々に言い放った。

キュー
「おとーさんはアタシの事が好きだからだぜ!あとアタシの名前はキュピルさんの娘じゃなくてキューだぜ!」
ヘル
「あぁ、こいつめんどくせ。やっぱり。」
キュー
「おーおー、最近のヘル。おとーさんの前以外じゃ口が悪いぜ。」
ヘル
「元からだ。」
テルミット
「(・・・・あれ・・・。以前キュピルさんの性欲について話が出てたけど・・・。もしかしてキュピルさん・・・・ホモって可能性は・・・・。)」

ヘル
「(・・・こいつの言う事試しに信じてみるか・・・。しかし未成年か。CHHにでもいかねーと簡単には用意できねーな。)」




・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。



輝月
「・・・・・・・・・。」
琶月
「師匠。珍しく和紙と筆を持って何を書いているのですか?」
輝月
「うるさい。黙れ。散れ。帰れ。地に帰れ。」
琶月
「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!今までにないぐらいひどい事言われてる!!!!!」
輝月
「今作戦を練っておるのだ。気が散るから向こうへ行け!」
琶月
「ん?作戦ですか?行き当たりばったりの師匠っぽくないですね~。」

一秒後。裏拳を食らわせられた琶月が悶絶した声を上げながら畳の上で転げまわった。

輝月
「(私には魅力はない・・・。正攻法で仕掛けたところで失敗に終わるのは明白。約束なり決闘なり、奴がワシに背けぬ状態へ持って行くのが理想じゃ・・・。
だがどうやってその状態へ持ってゆくか・・・・。)」
琶月
「おー、師匠本気ですねー。」
輝月
「本気で殺されたいようじゃな・・・・。」

輝月が鬼をも怯ませる眼光で琶月を硬直させる。

琶月
「ひぃっ!!すみません!!そこまでナイーブに思っていたとは知りませんでした!!!」
輝月
「・・・せっかくだから琶月にも手伝ってもらおう。」
琶月
「え?」



・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




それから数日後。ある夜、キュピルはクエストショップ内と自宅の空気が違うことに気が付いていた。

キュピル
「ファン、ちょっと時間いいか?」
ファン
「どうかしましたか?」
キュピル
「何かみんなの様子が変だ。ファンは気づいたか?」
ファン
「さぁ・・・。僕はキュピルさんみたいに人の感情を空気で察するのは苦手なので。すみません」

と、ファンがいつもの表情で答える。

キュピル
「ふむ・・・。なんだろうな・・・・。」
ルイ
「キュピルさ~ん!」
キュピル
「(違和感丸出しのルイがさっそく。)」

早くもキュピルに勘ぐられているルイだがそんなことも知らず、強引に席に座らせた。

ルイ
「キュピルさん。言っていただいた例のお酒。ようやく届きましたよ!!」
キュピル
「え?何の話だ?」

ルイが一升瓶を机の上にドンと置いて自身も座る。

ルイ
「もう、またとぼけちゃって。一緒にお酒飲んでくれるって言ったじゃないですか♪」
キュピル
「(あれ・・・。まじで覚えてない・・・。でも自分で安請け負いしやすいのは知ってるし、しかも忘れやすいからな・・・。
もしかしたら本当にルイと酒を飲む事を約束してたかもしれない・・・。)」
ルイ
「一緒に飲んでくれますよね?」

ルイが微笑みながら首をかしげた。

キュピル
「(まぁ、お酒飲むぐらいならいっか。)
ああ、いいよ。」
ルイ
「ありがとうございます♪」

ルイがコップにお酒を注ぎこみながら心の中でニヤリとほくそ笑んだ。

ルイ
「(流石キュピルさん。ありもしない約束を本当にしていたと勘違いしましたね?
このお酒はただのお酒ではありません!!!これは私が前々からいざという時のために作っておいた精神に効く究極の即効性媚薬です!!
別に身体が敏感になったりはしませんが、間違いなく興奮状態になる事は間違いありません!キュピルさんに本当に性欲があるかないか。確かめさせて頂きます!!)」
キュピル
「なぁ、このお酒かなり匂いきつくないか?」
ルイ
「(・・・キュピルさん勘づくの早すぎです・・・。)
そうですか?異国のお酒なのでもしかしたら匂いがきついかもしれませんね。」
キュピル
「んー、そんなものか。・・・・ん?ルイは飲まないのか?」
ルイ
「え。」


・・・・・・・・。

ルイ
「(じ、自分の事忘れてましたーーーーーーーー!!!!

でもここで飲まないと怪しさ満点ですし・・・。飲まないわけにも・・・!で、でもこの媚薬は・・・・。
・・・・・う、ううううぅぅぅ・・・!!!)」
ファン
「ルイさんの分もお酒注いでおきましたよ。」
ルイ
「ファンさんの意地悪。」

ルイがジト目になりながら、キュピルに聞かれないようすごく小さな声で呟いた。

ファン
「何のことですか?」
ルイ
「いえ、なんでもないです。」

勿論、ファンがこのお酒がまさか媚薬入りだろうとは当然ながら知らない。

キュピル
「それじゃ乾杯。」
ルイ
「か、かんぱ~い。」
キュピル
「どうした?声が震えているぞ。・・・やばいお酒だったりしないよな?」
ルイ
「そ、そんな事ありませんよ!」

そういうとルイはコップに入ったお酒を一気に半分ほど飲み込んだ。

ルイ
「ほら。何ともありません。」

ルイがメイド長時代で培ったプロの作り笑いを見せる。これが作り笑いであることはキュピルには見抜けなかった。

キュピル
「俺も飲んでみるか・・・。」

キュピルもルイと同じく半分ほどお酒を飲む。

キュピル
「・・・・ん?なんだこれ?すごい変な味がするお酒だな・・・。」
ルイ
「・・・・・・・・・・・・。」
キュピル
「もう少し飲んでみるか。」
ルイ
「・・・・・・・・・・・・・・。」

キュピルがもう一度コップにお酒を注ぎこみ、同じく半分ほど飲む。

キュピル
「・・・・んー、この味なんていうかな。焦げた味だな。焼き酒か?」
ルイ
「・・はぁ・・・・・はぁ・・・・。」
キュピル
「・・・ルイ?」

ルイ
「(ど、ど、ど、ど、ど、どうしよう・・・・。じ、自分で自分を抑える自信が・・・・・。そ、そうだ・・・キュピルさんもきっと・・・・。)」

ルイが紅潮させた顔をあげ、キュピルの目をみつめる。
きっとキュピルも変化が訪れているはず・・・かと思いきや全く変化が見られない。

キュピル
「ん?ルイ。顔が赤いけど大丈夫か?」

キュピルが手を伸ばし、ルイの額に当てた。
一瞬ルイがビクッと震えた。

ルイ
「(・・・こうなったら・・・。勢いに身を任せてキュピルさんを・・・。)」
ファン
「?」

ヤケになって逆にキュピルを押し倒そうとしたその瞬間。

ヘル
「キュピルさん!!ちょっと来てくれませんか!?」

ヘルがクエストショップに通じる部屋から大声をあげて呼んでいた

キュピル
「何だ何だ?せっかくルイとお酒を飲んでいたのに。」
ルイ
「あ、キュピル・・・さん・・・。」
キュピル
「ルイ、ちょっと待ってて。」

そのままキュピルはクエストショップのリビングに行ってしまった。

ルイ
「・・・・・・・・・・。」
ファン
「風邪ですか?」
ルイ
「かもしれないです。・・・はぁ・・・・。」
キュー
「おーおー、何かすごい匂いのするお酒があるぜ!飲んでみてもいいかー?」
ルイ
「だ、だめです!!!!」

即座にルイがお酒を取り上げ自分の部屋に戻ってしまった。

キュー
「何だ何だ?やけに顔が赤かったな~。ルイ。」
ファン
「随分アルコール度数の高いお酒だったのでしょうかね。ルイさん意外とお酒弱いので。」



・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。



キュピル
「ヘル、突然叫んでどうした。」
ヘル
「キュピルさん、子供は好きですか?」
キュピル
「突然何なんだ。そんな風に質問されると何か危ない質問されているみたいだな・・・。」
ヘル
「・・・実は・・・困ったことにちょっと危ない意味も含まれています。おーい。」

ヘルが扉に向かって叫ぶとクエストショップ入口から琶月と同じ年齢ぐらいの子がドタバタ走りながらヘルの元へ走って行った。
その子はヘルの隣で止まるとキュピルに向かって軽くお辞儀をした。
容姿はキューと少し似ているかもしれない。背丈150cm前後。キューと同じく腰まで伸びた髪。琶月ほどではないが貧乳。服装はヒラヒラのレースがついたドレス。この手の子は今まであったことがないかもしれない。
ルックスは背丈以外はキューと似ているがキューとは決定的に違うのは髪が真っ黒なのではなく、明かりが反射する眩しい金髪。

金髪の子
「初めまして、キュピル様。」
キュピル
「・・・・ヘルの子供?」
ヘル
「ぶはっ。」

想定外のセリフが飛んできたせいかヘルがその場で咽る。

ヘル
「ち、違います。この子は保護された子供です。」
キュピル
「保護された子供?」
ヘル
「はい。場所は言えないのですが、国が機能していない無法地帯で暴漢の脅威に晒されていた貴族の子です。」
金髪の子
「ウル・ウィルタと申します。」
キュピル
「ウルか。よろしく。」
ウル
「よろしくお願い申し上げます。」

ウルが深々と頭を下げる。しっかり教育を受けた、確かに貴族の子のようだ。
問題を起こすような子には見えない。

ヘル
「俺の知り合いにこういった子を保護して世話をする奴がいるんですが、一身上の都合でこの子だけは特別で・・・紆余曲折の末、俺が預かることになりました。」
キュピル
「ふむ・・・・その辺は後で詳しく聞かせてもらおう。しかし、困ったな。部屋が空いていない。」

ヘルが困った顔をしながらキュピルに話の続きを持ちかける。

ヘル
「・・・実はキュピルさん。この子には・・・重大な秘密・・・いや・・・障害とでも言うべきなのでしょうか。ある病気を患っています。」

キュピルが眉を顰め深刻そうな顔をする。

キュピル
「・・・命に関わる難病か?」

ヘルが小声でキュピルの耳元でひそひそと話す。

ヘル
「・・・・ウルは性依存症です。」
キュピル
「せ、せい!?」

キュピルが驚きつつ後ろに一歩引いた。

ウル
「キュピル様。」

ウルが目を潤めながらキュピルに迫る。キュピルの胸辺りまでしかない背丈。
ウルがキュピルの手を握る。

ヘル
「(キュピルさん、動けないでいるな。それもそうだ。こいつを競り落とすには苦労したからな・・・・。結局金足りなくて競っている奴は皆殺しにしたんだが。
CHHに慣れ親しんだ奴でもこいつには十分すぎる魅力がある。調教も進んでいるからな、その手の世界に関わったことのないやつなら
例えキュピルさんでもイチコロだ。安心してくれ、キュピルさん。そのままウル無しで生きていけなくなったらルイさんは俺が貰う。)」

キュピルが知ったら殴られるじゃ済まされない事を考え続けるヘル。
キュピルの手を握っているウルは、そのままキュピルの手を引っ張り自分の胸元へ置こうとしたその瞬間。

キュピル
「わ、悪い・・・。俺そういうのはちょっとあんまり興味なくて・・・。」
ヘル
「え、まじっすか!?」

ヘルと一緒にウルも驚いている。プライドが高い子なのか、少しムスッとした表情を見せている。

ヘル
「こんなチャンス滅多にないんだけどなぁ・・・。もしかしてキュピルさん、性欲全然ないタイプなんですか?」

誰もが聞きたかったことをついにヘルが切り込んだ。
するとキュピルは即答で

キュピル
「いや、あるよ。」

っと答えた。



ルイ
「(あ、あ、あ、あ、あるんですか!!!????)」
輝月
「(奴にも性欲はあったかっ!!!)」

結局その後のキュピルの動向が気になっていて窓の外から聞き耳を立ててたルイ。
そして、クエストショップの廊下から聞き耳を立てていた輝月。
二人が大きな反応を見せていた。


ヘル
「キュピルさん、あるなら何故?ウル良い子ですよ。」
キュピル
「ヘルもしかしてロリコンか・・・?」
ヘル
「いや、俺はルイさん好みだ。」

キュピルに頭をたたかれるヘル。

ヘル
「あいたた・・・。すみません。」
キュピル
「とにかく・・・。ウルはちょっとクエストショップに置けない・・・。その・・・。あまりクエストショップの風紀も乱したくないしな・・・。」
ヘル
「キュピルさん、もしかして本当はある人とヤリたくて仕方がない状態ですか?」

再びキュピルがヘルの頭を叩いた。

ヘル
「図星みたいですね、キュピルさん。」



ルイ
「(そ、それは・・・・それは・・・・・・・!!!!)」
輝月
「(ヘル、今日だけは褒めてやる。そのまま死ね、下がれ!)」



キュピル
「ウルの保護先はこっちで何とかするからとりあえずその子h・・・・。」
ヘル
「大丈夫です。万が一断られた時のことも考えて俺の方で別の知り合いを当たります。」
キュピル
「そうか。それは助かる。その子の事は頼んだよ。」
ヘル
「はい。」

そういうとヘルはウルを連れてクエストショップから出て行った。




ウル
「・・・私に魅力がなかったのでしょうか。」
ヘル
「そういう訳じゃねぇ。キュピルさんが特殊すぎたんだ。まぁいい。演技は疲れただろ。自由にしていい。
ただ、キュピルさんがやらなかったから今日の相手は俺にしてもらうぞ。」




・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。




キュピル
「(やれやれ。ルイと一緒に酒を飲む気分じゃなくなってしまったなぁ・・・。)」

・・・・心なしか・・・気分が変だ。
何というか、強敵を前にしているようなあの緊張感と興奮に近い。

キュピル
「(強い酒だったのだろうか、やっぱり。ウルにあったせいも少しはあるのか・・・。)」

キュピルが自分の家へ戻ろうとしたその瞬間、クエストショップのメンバーたちの部屋へ通じる廊下から琶月が飛び出てきた。

琶月
「どわぁっ~~~!!!」
キュピル
「うおっ!!」

突如琶月が廊下から飛び出し、キュピルの足元へ転がってきた。

琶月
「あいてて・・・。」
キュピル
「どういう転び方したらそうなるんだ・・・・。」
琶月
「あ、キュピルさん。ちょうど良い所に。師匠がキュピルさんを呼んでいたので行ってあげてください。」
キュピル
「ん?輝月がか?・・・ごめん、ちょっと体調悪いから急用でなければ明日でいいかって伝えてくれないか?ってか、明日で頼む・・・。俺はもう寝るよ。」
琶月
「はーい。」

そういうと琶月は輝月の部屋へ入っていき、キュピルを連れてこなかった事でボコボコにされるのであった。

琶月
「私何一つ悪くないですよね!!!?」



・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。







結局、本当にキュピルには性欲はあったのだろうか?
ヘルとの会話でキュピルは自分で性欲はあると言ったが、媚薬を飲まされようがその状態で極上の子と合わされ合法的にやれる機会が与えられていたとしても、
キュピルは何一つ動じることはなかった。


ただ、最後に大きな動きがその夜に起こりそうだった。




ルイ
「はぁ・・・・きゅ、キュピル・・・さぁん・・・。」

キュピルと同じく媚薬を飲んだルイ。
深夜、気持ちが抑えられずよろよろと歩きながらキュピルが寝る部屋へ移動する。扉の前でノックし返事がある事を待つ。
・・・しばらくして、キュピルが返事を出した。

キュピル
「誰だ?」
ルイ
「私・・・です。」
キュピル
「ルイ?」

キュピルが扉を開けた瞬間、ルイがキュピルにもたれ掛った。

キュピル
「ル、ルイ。どうかしたのか?」
ルイ
「・・・・キュピルさん。・・・・その・・・・・。一生のお願いです、私を抱いてください・・・。」

媚薬の勢いがなかったら絶対に言えなかったこのセリフ。
ルイが目を閉じ、後は流れに身を任せる。
が、キュピルから予想外な言葉が飛び出てきた。

キュピル
「抱いてって抱きしめればいいのか?」
ルイ
「え。」




・・・・。


その晩。悶々とした夜を送る嵌めとなったルイであった。



・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・。





結局キュピルには自身のコントロールを外してしまう性欲はないのだろうか?
昨晩の一部始終を実は聞いていたファンがキュピルに対して質問をした。

ファン
「キュピルさん、昨日の深夜の事ですがルイさんがキュピルさんの部屋に行ったそうですね。」
キュピル
「ん?・・・あぁ・・・。そういう話は絶対にルイには言うなよ?」
ファン
「キュピルさんだから言えますので安心してください。率直に言うと、昨日はルイさんと一晩過ごしてもおかしくなかった・・っというよりもルイさんもそれを望んでいたように
思えたのですが、何故あのようなとぼけ方をしたのですか?」

キュピルが後ろ髪を摩りつつ、視線を逸らしながら話した。

キュピル
「ファンには何もかも筒抜けか。・・・ルイに関してはどうしても一線超えてまで信用できないんだ。」
ファン
「おや。」

想定外の回答が飛んできてファンの目が丸くなる。

キュピル
「・・・・以前、作者について話をしただろ?」
ファン
「お話していただきましたね。大変失礼な事を申しますが、キュピルさんもルイさんも作者の手によって作られたという話ですよね?」
キュピル
「ああ。・・・少なくとも俺は自分の意思でこれまでの道を切り開いてきたつもりだが、作者は全て作者が用意したシナリオ通りに沿っているって言っている。
・・・俺の意思を知らない間に捻じ曲げ、作者が好みそうな絶望の世界へ引き込もうとするその方法はルイが関係しているんじゃないのかって睨んでいる。」
ファン
「ルイさんですか。」
キュピル
「ああ。・・・・あんな風にルイを仕向けさせていたのも、ルイ自身が気づかなくても裏で作者がそうさせていたのかもしれない。
そう考えると・・・・とてもじゃないがルイとの信頼関係の一線を越すことが・・・できない・・・・。」
ファン
「・・・複雑かつ悩ましい問題ですね。・・・では正直な事を言うと、昨日の晩は出来る事ならルイさんと一晩過ごしたかったのですか?」

キュピルが視線だけでなく、顔も逸らしながら答えた。

キュピル
「・・・・本当はな。」

顔を逸らした先には窓があり、窓の先には水平線まで続く海がある。
その海を眺めながらキュピルが小声で呟いた。

キュピル
「・・・・本音を言うと昨日はルイもウルも本当はやりたかった・・・・・・。ウルに関してはルイを裏切ることになるからやらなかった。」
ファン
「キュピルさんも男でしたね。きっと何人かは安心したに違いありませんよ。」
キュピル
「・・・・だろうな。」



終わり


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